窓に向かって川端さんが低いうなり声をあげていた。
イヌやネコが何もない空間を見つめて激しく吠えたり、
ジッと固まったりする現象は、霊的なサムシングであるとする説が有力。
一瞬、これは川端さんがエクト的なプラズムを感知して
私に何らかの水子的な供養を促しているのかと汗ばんだ。
しかし、よくよく窓を見てみれば何のことはない。
そこにあるのはヤモリ、あるいはイモリ的なシルエット。
川端さんは初めて見るヤモリ、
あるいはイモリに怯えていただけのようだ。
ヤモリとイモリの生物学的区分は、現代の最新脳医学をもってしても
ハッキリとはわからないとされている。
磨りガラスの向こうに張りついている生物がヤモリなら安心。
ヤモリは"家守"、すなわち家を守ってくれる神の使いだからだ。
だが、これがイモリとなると話は別。
イモリは"伊守"、すなわち式守伊之助の生まれ変わり。
いますぐ誰かと相撲を取らないと、
一生マゲが結えない頭になってしまう。
窓の向こうにいるのがヤモリかイモリかはわからないが、
私は念のため川端さんと相撲を取っておくことにした。
その勝敗については、お互いの名誉のためにも
ここに書くべきではないだろう。
ただ、私の右上手が川端さんの喉輪によって
切られさえしなければ……とだけ言っておく。
青き床の冷たさを背中に感じつつ、
今日はこの辺で横になることにする。