数日前から天井に何らかの気配を感じていたのだが、
ついにその正体が判明した。
これはクモ。それも、大きさや色、フォルムから察するに
タラン的なチュラ。俗に言うタランチュラだ。
民家に忍び込み、寝ている人の足に
痒みを誘発する毒液を注入するという例のアレだ。
常人ならば、その禍々しさに恐れおののき、
警察に通報したり、業者に駆除を依頼するところ。
だが私はプロの虫取り人だ。
ナッツ家に入り込んだのが、この毒グモの運の尽き。
文字通り、飛んで火に入る夏の虫。
あるいは、揉んで染み入る春の豆と言い換えてもいいだろう。
いままで、さまざまな虫と
生きるか死ぬかの闘いをくりひろげてきた私だ。
いかに毒グモと言えど、
私のゴキジェット捌きから逃れることはできない。
あるいは生け捕りにして区役所に持っていくのも妙案だ。
私は天井の毒グモを見上げる形で身構え、
敵の動きをうかがった。
先に動いた方が殺られる。
時空がねじ曲がるような緊張感。
ひとりと1匹は微動だにしないまま時間だけが流れる。
日が暮れて、夜が明ける。
2日目の朝である。
業を煮やした毒グモが、尻から発した糸にぶら下がり、
ススーッと私の目線まで降りてきた。
悲鳴をあげてバックステップする私。
するとどうだろう。毒グモはサッシの隙間から出ていった。
これは完勝と言っていいだろう。
ときに真剣勝負は、他人から見た場合退屈に映ることも少なくない。
私と毒グモの名勝負は20年後、
アマレス関係者を中心に評価されることだろう。
天井を見上げ続けて筋を違えた首筋に湿布を貼りつつ、
今日はこの辺で横になることにする。