2週間前の綿毛禍以来、空室となっていた隣室に
新たな住人が引っ越してきた。
私が期待していた、ひとり暮らしの女子大生ではなく、
田辺さんという単身赴任の中年男性だった。
しかし、わざわざ粗品持参であいさつに来てくれたところを見ると
悪い人ではなさそうだ。
粗品の中身は、田辺さんの名字がプリントされたTシャツ。
なるほど。これならすぐに名前を覚えられる。
……と思ったのだが、マンションの住人全員が
田辺Tを着て回覧板を回したりゴミ出しを行うようになったため、
あっという間に誰が本物の田辺さんだかわからなくなってしまった。
木を隠すなら森の中。
豆を配置するなら弁当箱、及び重箱の右角っこ。
(但し左利きの人においては、この限りではない)
この田辺という男、もしかしたら"とんだ一杯食わせ物"かもしれない。
あるいは、"今夜一粒ピスタチオ"と言い換えてもいいだろう。
この田辺という男が、どこまで引っ越しの
あいさつに行っているのか定かではないが、
すでに最寄り駅の商店街は田辺Tで溢れ返っている。
このあまりにも不自然な普及速度が、
新たなご近所トラブルの火種とならないことを祈るばかりだ。
とりあえず、綿毛的な警戒だけは
今後も怠らずに続けていきたい。
洗濯によってプリントの黒が溶けだし
黄色がくすんできたことに心を痛めつつ、
今日はこの辺で横になることにする。
干す時パンパンしなさ〜い。。。
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