今日は、タチの悪い輩に絡まれた。
前方から歩いてきた目つきの悪い男がすれ違いざまに、
「おぅ、火ィ貸してくれよ」と話しかけてきたのだ。
虫取り人はタバコを吸わない。
クワガタやカブトムシは人一倍臭いに敏感なのだ。
タバコを吸わないのだから、
当然ライターやチャッカマンの類は持ち歩いていない。
目つきの悪い男にその旨を伝えると、
「なんだよ! じゃあ金でいいよ! 金貸せよ!!」と凄んできた。
やはりそうだ。火を借りるフリをして、最初から金品が目的なのだ。
でも大丈夫。こんなときのためのピーナッツディフェンスだ。
運の悪いヤツ……そう思いながら私は
おもむろにポケットに手を入れ、落花生を捜す。
ない! なんということか!!
ポケットをいくらまさぐっても、さっき山で拾った松ぼっくりしかない。
これではどうすることもできない。
「てめえ! 登呂遺跡ナメんなよ!!」。
私の不審な動きが、目つきの悪い男の
怒りに火をつけてしまったようだ。
しかし、私はこんなときどうすればいいのか知っている。
大きく後方にバックステップして、
間髪入れずに額を地面にこすりつけた。
これがジャパニーズドゲザだ。
「ちっ、シケてやがんなあ」。
そう吐き捨てると目つきの悪い男は去っていった。
完勝である。
護身術の極意は、自分も相手も傷つけずにことを収めること。
そういう意味で、闘いは理想的な形で幕を下ろしたと言えるだろう。
そうは言っても、今後街で絡んでくる輩が
ジャパニーズドゲザが通じる相手ばかりとは限らない。
ポケットの中に落花生を補充してから、
今日はこの辺で横になることにする。
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